あるイギリスの文章学者が、文章に上達するには次のようにすればよいと進めている。
まず自分が好んでおり、なるべくならば、そのような文章を書きたいと考えている作家の文章を選び出す。この文章は、人が上達するに従って変わってくるものだから、初めはそうやかましく考えなくてもよい。とにかくいい文章だなと思ったものを拾い出す。そうして、それの梗概を作る。例えば、原稿用紙一枚ぐらいの文章であったならば、それを5、6行の梗概にしてしまうのである。こうして一週間ほどたって、今度はその梗概を基にして、前の文章を復活してみるのである。前の文章を思い出すというたてまえでなく、むしろ梗概に基づいて新しく文章を書いてみるというくらいの気組みで、文章を復活してみる。そうして、その結果できた文章を原文と比べ、その出来栄えを検討するのがよい、というのである。
①この方法は文章の新しい方法として推奨に値すると思う。昔は文章の上達にはよく名文の暗誦が主張された。しかし今の学生は文の暗誦ということになれていない。②この方法がよいのは恐らく中学校3年までであろう。中学校3年ぐらいまでだと、記憶力も非常にあるし、また己を捨てて文章を見覚えることもできるのであるが、高等学校以上になると、自分というものもできてくるし、文章のいい悪いについても自己流なりの批評眼が備わってくるので、なかなか暗記ができない。また自分ができかけると、自然、暗誦というような機械的な、己をむなしくしたような作業はできにくくなるものなのである。
それで高等学校生などから上の人には、よい文の復活と言う方法がちょうどこの年頃の気持ちに合っているかもしれない。現代はいったいあまり棒暗記を喜ばない時代だから、特にこの方法は面白いと考えられる。
この場合、復活作業のときに、元の文章を一字一句同じにしようと心をくだかないほうがいい。覚えているところはそのまま書くがいいが、覚えていないところは自分で考えて、だいていこんなふうだったと考えるとおりに書いていく、そうして後で比べることが大切なのである。
(「一つの文章修業」による)
問1. あるイギリスの文章学者が進めている文章上達法は次のどれか。
1. まず気に入った文章を選び,暗誦する。次は翌日に、暗誦した内容を原稿用紙に書いてみる。後は元の文章と比べてみる。
2. まず気に入った文章を選び,暗誦する。次は一週間ほどたってから、暗誦した内容を原稿用紙に書いてみる。後は元の文章と比べてみる。
3. まず気に入った文章を選び,その梗概を作る。次は一週間ほどたってから、その梗概を基にして前の文章を復活してみる。ただし、復活といっても元の文章と同じようにする必要は無い。
4. まず気に入った文章を選び,その梗概を作る。次は一週間ほどたってから、その梗概を基にして前の文章を復活してみる。復活の際、なるべく元の文章と同じようにしようと心掛ける。
問2. ①「この方法は文章の新しい方法として推奨に値すると思う」とあるが、筆者はその方法をどういう人に推奨しているのか。
1. 小学生
2. 中学校3年までの人
3. 高等学校生などから上の人
4. 日本の作家たち
問3. ②「この方法」とはどんな方法か。
1. 高校生たちの用いるべき方法。
2. 筆者の独自な方法。
3. あるイギリスの文章学者の進めている文章上達法。
4. 名文を暗誦する文章上達法。
答案:3 3 4